【下級裁判所事件:選挙無効請求事件/広島高裁松江支部/ 30・2・21/平29(行ケ)1】結果:棄却

要旨(by裁判所):
1憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度の仕
組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮できる他の政策的目的な
定につき国会に広範な裁量が認められている。国会が選挙制度の仕組みについて
具体的に定めたところが,投票価値の平等の確保という憲法上の要請に反するた
め,上記裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認できない場
合に,初めてこれが憲法に違反することになると解すべきである。
2平成28年法律第49号(平成28年改正法)は,その本則において,平成3
2年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査に基づく改定案の作成については
日本国民の人口の較差が2倍未満となるようにして,行政区画,地勢,交通等の
事情を総合的に考慮して合理的に行い,都道府県別定数配分はアダムズ方式によ
ることとし,その中間年に行われる簡易国勢調査の結果,その最大較差が2倍以
上になったときは,都道府県別の選挙区数を変更せず,衆議院議員選挙区画定審
議会(区画審)が較差是正のため選挙区割りの改定案の作成及び勧告で対応する
というものである(新区割基準)。新区割基準のうち人口の較差に係る部分は,
投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすに至っているなどといえず,投票価値
の平等の要求に反しないといえる。新区割基準のうち都道府県別定数配分の方式
については,都道府県の人口を一定の数値で除した商の整数に小数点以下を切り
上げた数を都道府県別の議席数とするため,各都道府県に必ず定員1人が配分さ
れるが,小数点以下の数値をすべて切り上げることは端数処理としてみると合理
的な手法の一つであり,人口に比例して各都道府県に定数を配分することに変わ
りはなく,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすに至っているなどとはいえ
ず,投票価値の平等の要求に反するものではないといえる。
平成28年改正法は,その附則において,新区割基準により選挙区が改定され
るまでの特例措置として都道府県別定数配分については平成27年国勢調査人口
を基にアダムズ方式により各都道府県の定数を算定した場合に減員となる都道府
県のうち,議員1人当たり人口の最も少ない都道府県から順に6県を選択してそ
の定数を1人ずつ減らすにとどめ,選挙区割改定については平成27年国勢調査
に基づき算定された人口比最大較差を2倍未満にし,平成32年見込人口に基づ
き算定された人口比最大較差も2倍未満とすることを基本としている(本件区割
基準)。本件区割基準のうち都道府県別定数配分の方式については全都道府県に
つきアダムズ方式に基づき定数を配分したものではないものの,平成28年改正
法制定時には約4年後に大規模国勢調査が控えていて,その実施前に全都道府県
につきアダムズ方式により都道府県別定数配分を見直せば,立て続けに都道府県
別定数配分が改定される事態に陥るため,特例措置としてアダムズ方式導入を見
合わせることも,国会の裁量権の行使として合理的であること,本件区割基準に
おいては選挙区の改定に当たり平成27年国勢調査人口における較差の是正のみ
ならず平成32年見込人口における較差の是正も図られていて,アダムズ方式導
入までの間も可能な限り投票価値の平等を実現しようと努めており,現に本件選
挙当日における各選挙区間の選挙人数の最大較差が,小選挙区比例代表並立制の
開始以降,最も低いことに照らせば,本件区割基準も,平成24年改正前区画審
設置法3条1項等の趣旨に沿っており,1人別枠方式の構造的な問題の解決を指
向したものであるといえる。
よって,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙当時,本件区割基準
に従って選挙区割りが定められた選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の
問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったとはいえない。
3したがって,原告らの請求は,いずれも理由がない。

(PDF)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/552/087552_hanrei.pdf (裁判所ウェブサイトの掲載ページ)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87552