要旨(by裁判所):
1有限会社安愚楽共済牧場の和牛預託取引(投資者に売却した繁殖牛を一定期間預かり飼養した後,当該繁殖牛を売却額と同額で投資者から買い戻し,買戻しまでの期間中年5分程度の金員を投資者に支払う取引)の勧誘は,遅くとも平成11年3月末以後,取引対象とすべき繁殖牛が大幅に不足しているのに,その事実を秘匿してされた違法なものであり,法人の不法行為を構成するとされた事例。
2同社の取締役であった被告A及びBは,代表取締役であるJ社長と並んで業務執行権限を有するのであり(旧有限会社法26条),取締役在任中,同社の違法な営業を改めるための行動をとるべき職務上の義務を負っていたが,同社はワンマン社長(有限会社持分全部を保有)であるJ社長とその腹心のK及びLの3名(経営陣3名)が経営を牛耳る,極めて閉鎖的な会社であった,経営陣3名は,繁殖牛が足りなくなっても,倒産を避けるため和牛預託取引を継続すべきであり,経営陣3名以外の者が和牛預託取引のあり方に容喙することを一切許さないとの方針で会社経営をしていた,J社長は上記方針の妨げになりそうな役員や社員をいつでも本部から遠ざけることができた,被告A及びBは,従業員として賃金の支払を受けており,多分に名目的な取締役であった,実際にも,被告A及びBは,経営に関する口出しをした後に転勤させられている,といった事情の下では,被告A及びBが,適切に社内情報を収集し,和牛預託取引の実態を知り,上記職務上の義務を果たすことは極めて困難であったといわなければならず,したがって,被告A及びBには,同社の取締役としての職務を行うにつき,悪意又は重大な過失があったということはできない(旧有限会社法30条の3・旧商法266条の3に基づく原告らの被告Bに対する損害賠償請求を認容した原審の判断は不相当である)とされた事例。
3同社は,「株式会社安愚楽牧場」に商号変更して株式会社に移行した時点(平成21年4月1日)で会社法2条6号所定の「大会社」となっており,同法328条2項・337条1項,389条1項により,公認会計士又は監査法人たる会計監査人及び業務監査も行う監査役を置かなければならなかったにもかかわらず,それら機関を置こうとせず,被告Cに非常勤の会計限定監査役に就任することを要請し,被告Cもこれに応じて監査役に就任したとの事実関係の下では,被告Cは会計監査を行う職責を有するだけで業務監査を行う職責を負わない(業務監査の職責を負うことを前提として,会社法429条1項に基づく原告らの被告Cに対する損害賠償請求を一部認容した原審の判断は不相当である)とされた事例。
(PDF)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/737/086737_hanrei.pdf (裁判所ウェブサイトの掲載ページ)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86737