【下級裁判所事件/広島地裁民2/平29・9・27/平25(行ウ)32】

要旨(by裁判所):
1事案の概要
本件は,いわゆる新65期司法修習生であった原告らが,主位的に,裁判所法改正(以下,同改正を「本件改正」という。)による給費制の廃止は違憲無効であり,本件改正後も本件改正前の裁判所法が効力を有する一方,原告らは違憲無効な立法行為等により本来受給できるはずの給費を受けることができなかったと主張して,本件改正前の裁判所法による給費受給権を有する地位に基づく給与の支払請求又は,国家賠償法1条1項に基づく逸失利益及び慰謝料の損害賠償請求として,予備的に,損失補償による正当な補償(給費相当額)の請求として,被告に対し,各原告それぞれに1万円の支払(各請求の一部請求)を求める事案である。本判決は,原告らの請求はいずれも認められないとして,棄却するものである。
本件の争点は,本件改正法が違憲無効か,本件改正が国家賠償法上違法か,本件改正後給費制を復活しなかった立法不作為が国家賠償法上違法か,損失補償の適用があるかである。
2本件改正法が違憲無効か
?この点につき,原告らは,統一司法修習及び給費制は憲法が要請する制度であり,司法修習生が給費を受ける権利は司法権の本質及び司法修習生の地位等に基づく憲法上の要請として保障されており,また,司法修習生が給費を受ける権利は憲法の個別の条項(人格権としての給費を受ける権利(憲法13条),法曹になる職業選択の自由(憲法22条1項),生活保障(憲法25条),職務に従事するうえでの代価補償(憲法27条))によっても保障されているところ,本件改正法はこれらの憲法上の権利を侵害するものとして違憲無効である,また,本件改正法は,原告ら新65期司法修習生と,給費を受けた現行65期司法修習生・新64期司法修習生との間,給与を受けて研修を行う裁判所書記官研修生との間において,不合理な差別を行うもので,法の下の平等(憲法14条)に反し違憲無効である,と主張する。
?しかし,「司法権の本質及び司法修習生の地位等に基づく憲法上の要請として司法修習生の給費を受ける権利が保障されている」との主張については,憲法に司法修習及び給費制に係る条項はないのであるから,憲法は法曹養成についていかなる具体的な制度を採用すべきかについて定めておらずこれを立法に委ねており,統一司法修習や給費制が憲法上保障されているものとは解されない。また,原告らの指摘するように,司法権を担うに足る法曹三者を養成し,それを通じて国民の裁判を受ける権利その他の諸権利を保護することが憲法上要請されるとしても,給費制の採用がそのような要請を満たすための不可欠のものとして当然に導かれるものではなく,本件改正後の法曹養成制度がそのような要請を満たさないものとは認められないから,原告らの指摘から給費制が憲法上要請されているとまではいえない。
?また,「憲法の個別の条項により保障された給費を受ける権利」が侵害されたとの主張については,原告らの主張する人格権としての給費を受ける権利は,国に対する給付請求であるから,根拠法規が必要であるところ,自由権の包括的な根拠規定である憲法13条によって根拠法規と解することはできない,本件改正法の下でも司法試験に合格し司法修習を終えれば法曹になることができるのであり,司法修習生に課される修習専念義務や兼業禁止等の制約は,司法修習の本質に基づくものであり,司法修習生となることを選択したことに内在する制約であって,法曹になる職業選択の自由が本件改正法により侵害されたとは認められない,生活保障については,給費制を定めた本件改正前の裁判所法67条は生存権を保障した規定ではないから本件改正法が憲法25条に反するとはいえない,職務に従事するうえでの対価補償については,司法修習生は国に対して労務を提供する勤労者ではないから,対価を請求する根拠がないというべきであって,いずれについても原告らの主張を採用することはできない。
?さらに,平等権に反するとの主張についても,現行65期,新64期司法修習生と原告ら新65期司法修習生との間に生じた差異は,本件改正法の施行により必然的に生じたものであり,本件改正法にはその改正の趣旨及び立法に至る経緯に照らし合理性が肯定できるから,上記差異はいずれも憲法14条に反するとは認められない。
裁判所書記官研修生との差異については,裁判所書記官研修生は国家公務員であり,その研修は将来就くべき職責を十分に果たすための知識と能力を身に着けるために行うものであって,研修の後には裁判所書記官となることが予定されているのであって,司法修習生とはその身分地位,研修の内容や位置づけ等が全く異なるから,その結果各種相違があるのは当然であり,両者の差異が不合理な差別であるとは認められない。
?以上のとおり,司法修習生に修習期間中一定の給費を支給すべきという意見は,制度論として一つの傾聴すべき見解ではあっても,司法修習生が給費を受ける権利が憲法上保障されているものとは認められず,これを廃止することが平等権を侵害するものとも認められないから,本件改正法は憲法に反しない。
3本件改正及び本件改正後給費制を復活しなかった立法不作為が国家賠償法上違法か
立法行為又は立法不作為が国家賠償法上違法となるのは,憲法違反であることが明白であるにもかかわらず,立法行為や立法不作為を行った場合に限られるところ,上記2のとおり,本件改正法に憲法違反は認められないため,本件改正及び本件改正後給費制を復活しなかった立法不作為が国家賠償法上違法であるとは認められない。
4損失補償の適用があるか
原告らは自ら司法修習生になることを選択しており,原告らが指摘する,修習専念義務や兼業禁止等により修習期間中労働等により財産を獲得することができなくなる等の制約は,司法修習生になることを選択したことに必然的に伴う内在的な制約であるから,原告らの財産権が強制的に制限されたとはいえないし,それが公共のために用いられたとも,特別の犠牲に該当するともいえないから,損失補償の適用はない。
5結論
以上のとおり,原告らの主張はいずれも採用できないから,その請求はいずれも棄却すべきである。

(PDF)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/529/087529_hanrei.pdf (裁判所ウェブサイトの掲載ページ)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87529