【下級裁判所事件:殺人(予備的訴因殺人教唆)/福岡高 宮崎支部/平30・11・1/平30(う)10】結果:破棄自判

裁判所の判断(by Bot):

原判決の判断は,その判断の枠組み自体に合理性が認められず(前記2?の判断),合理的根拠を示すことなくC証言の信用性を肯定している点におすることができない。その理由は,以下のとおりである。
ア 原判決は,D会の副本部長である被告人が,他のD会関係者らに対し,「道具持ってこい。」と指示した事実を摘示して,当該指示にはD会としてEらに制裁を加えるために危害を加えることを含んでいたと認定している。
しかし,「道具持ってこい。」との指示は,文言上,凶器を準備するよう要求するものにすぎず,準備した凶器を用いて危害を加えるよう要求するものではない。そのような指示を発するに至った経緯又は発した際の周囲の状況等によっては,上記文言のみでも,凶器を用いて危害を加える指示を含み,指示を受けた者もそのような意味に理解する場合もあり得ようが,そのような言外の指示を認定するのであれば,言外の指示を認定するに足りる合理的根拠を示す必要がある。特に,本件においては,被告人がAによるEに対する刺突行為に直接関与していたとは認定されず,上記「指示」の段階では,被告人に個人的な悪感情などから積極的にE殺害を企図するまでの動機があったとは考えにくいことは原判決が指摘するとおりであり,本件現場に至る前の経緯において,被告人がEに殺意を抱くような切迫した状況にあったとも認められないのであって,他に被告人がEに殺意を抱いていたことを示す証拠もないから,被告人の殺意を認定するための根拠は,被告人が発したとされる「道具持ってこい。」との発言及び原判決の指摘する上記発言時の周囲の状況に限られることになるのであって,「言外の指示」を認定する合理的根拠の有無を検討するにあたっても,上記発言時の周囲の具体的状況に照らして「言外の指示」があったと認められる合理的根拠があるかということを中心に検討すべきこととなる。
この点,原判決は,大要,対立緊張関係にある暴力団関係者が一触即発の状態で対峙していたこと,Eが喧嘩の非常に強い人物であったことを根拠として示しているにすぎない。しかし,「道具を持ってくること」を指示した場合に,指示された者が持ってきた道具を用いて対峙するEらに危害を加えるに至る可能性を,指示者が認識し得たとしても,それだけで「言外の指示」があったというのには足りない。そのような可能性が相当に高く,通常であれば当然に生起するような関係,あるいは,「道具持ってこい。」と指示す(以下略)

(PDF)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/123/088123_hanrei.pdf (裁判所ウェブサイトの掲載ページ)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88123