【下級裁判所事件:伊方原発3号機運転差止仮処分命令申 事件/広島地裁民4/平30・10・26/平30(ヨ)75】結果:却下

要旨(by裁判所):
第1事案の概要
1本件は四国電力伊方原発3号機本件原子炉のおよそ100圏内広島市松山市に居住する住民債権者らが四国電力債務者に対して火山の巨大噴火に対する安全性が十分でないためにこれに起因する事故が起こる可能性が高くそのような事故が起これば放射性物質が放出されて債権者らの生命身体精神及び生活の平穏等に重大かつ深刻な被害が発生するおそれがあるとして人格権に基づく妨害予防請求権に基づき債務者に対して平成30年10月1日以降本件原子炉の運転差止めを命ずる仮処分命令を求める事案である。先行する仮処分命令申立事件の抗告審で広島高等裁判所が同年9月30日までの運転差止めを認めたため後に保全異議審で取消しその後の期間についての運転差止めを求めたものである。
2本件の主な争点は司法審査の在り方火山事象の影響による危険性である。
第2当裁判所の判断
1司法審査の在り方について
1債権者らも巨大噴火が低頻度な事象であって本件原子炉の運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠を示すことは不可能であることを前提としている。そのため債権者らの主張によっても本件原子炉の運用期間中に巨大噴火による事故が現実に発生して債権者らの生命身体財産及び生活の平穏等が害される蓋然性があるということはできない。
もっとも巨大噴火による事故が起きた場合には極めて甚大な被害が発生するおそれがあることからすればそのリスクの程度によってはリスクの下で原子力発電所を運転することが人格権を侵害するものとして運転の差止請求の根拠となる場合があり得るというべきである。
ただし本件は本案判決が確定するまでの間の暫定的な救済として仮処分命令を求めるものであり債権者らに生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため仮処分命令を必要とすると認められることを要する民事保全法23条2項。そのため問題となるのは本件原子炉の運用期間中に巨大噴火による事故が起こるリスクではなくより短期間の本案判決が確定するまでの間の上記リスクでありしかもその程度が著しい損害又は急迫の危険と評価されるものであることを要する。
2疎明責任
債権者らは本案判決が確定するまでの間の巨大噴火による事故のリスクがそのリスクの下で本件原子炉を運転することが著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものであることを疎明する責任がある。
もっとも債務者は火山事象に対する本件原子炉の安全性について調査した上本件原子炉の設置変更許可処分を受けこれに関する科学的技術的知見を有し関係資料を保有しているから債務者側においても火山事象に対する本件原子炉の安全性について積極的に疎明する必要がある。
当裁判所は火山事象に対する本件原子炉の安全性についての当事者双方の主張疎明を総合的に判断して巨大噴火による事故のリスクが著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものといえるかどうかを判断することとする。
3審査基準火山ガイドとの関係
低頻度の巨大噴火の問題につき火山ガイドを充足しないことをもって直ちに人格権侵害であるといえるかは問題であり少なくとも本件仮処分命令申立事件で問題となる本案判決が確定するまでの間に巨大噴火が発生することによる事故のリスクが著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものであることを基礎づける事情を直ちに推認させるものではない。そうすると巨大噴火に係る火山ガイドの解釈は行政訴訟とは異なり本件仮処分命令申立事件の帰趨に直結する問題とはいえないから必ずしもこれを判断する必要はない。
また火山ガイドについてはその一部が不合理であるかやそれが巨大噴火の可能性評価についてそれ以外の火山活動の評価方法と区別して考えるものであるかにつき火山ガイドを策定した原子力規制委員会自身が現在示している見解と一部の裁判例の解釈が異なっており裁判例相互の解釈も異なっている状況にある。しかも川内原子力発電所につきこの火山ガイドの解釈が争点となっている行政訴訟が国を当事者として係属中である。このような状況の下において国を当事者とする行政訴訟と比較してこの点についての判断資料が揃いにくい本件仮処分申立事件国が当事者でないことに加え保全事件の手続的制約もある。において火山ガイドの解釈を示すのが相当かどうかという問題もある。
当裁判所は以上の事情等を考慮し本件では火山ガイドの趣旨を確定した上でこれを充足するか否かを判断しその判断結果を著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害の有無の判断において重視するという判断手法ではなく前記糧獣納衙砲茲襪里蠹任△襪犯獣任靴拭
2火山事象の影響による危険性について
1火砕流が本件原子炉敷地に到達して事故が起こるリスクについて
もともと巨大噴火は極めて低頻度な事象であるから本件原子炉の運用期間と比較しても相当短期間である本案判決が確定するまでの間に巨大噴火が阿蘇で発生する可能性は一般的に非常に低いしかも火砕流が本件原子炉敷地に到達するか否かの場面で問題となるのは過去約258万年間における日本で最大規模の噴火である阿蘇4クラスの噴火が発生する可能性であり巨大噴火一般よりも更に可能性が低い。と考えられるところ阿蘇の火山噴出物活動態様の変化前兆現象の有無マグマ溜まりの状況地殻変動等の各種調査結果を踏まえてその可能性が低いとする債務者の主張は債権者らが主張する科学的に不確実な要素があるとしても相応の合理性を有するものである。また阿蘇において巨大噴火の前兆現象として想定しなければならない兆候が生じているとは認められないことに照らしてもその可能性は非常に低いというべきである。そうすると巨大噴火の火砕流が本件原子炉敷地に到達することによる事故のリスクが債権者らに著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものとはいえない。巨大噴火の時期規模を的確に予測することが困難であることをもって前記事故のリスクが債権者らに著しい損害又は急迫の危険をもたらすものと評価することはできない。
2降下火砕物火山灰が本件原子炉敷地に降下して事故が起こるリスクについて
ア債権者らが本件原子炉敷地において15を超える降下火砕物が降下する可能性が存在することの根拠として主張する阿蘇や南九州の火山の噴火についてはもともと巨大噴火が極めて低頻度であることに加え個々のカルデラについても近い将来にこうした噴火が起きる可能性は低いという知見が存在し確率論的評価によっても本件原子炉敷地において15を超える降下火砕物が降下する噴火は極めて低頻度であるという知見が存在する。そうすると本案判決が確定するまでの間に火山の噴火によって本件原子炉敷地に15を超える降下火砕物が降下する事態が起こる可能性は非常に低いというべきでありそのこと等からすれば降下火砕物の最大層厚の問題につきそのリスクが債権者らに著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものとはいえない。
イ債務者は降下火砕物の大気中濃度約3.1g?を前提として非常用ディーゼル発電機の吸気消音器に改良型カートリッジ式フィルタを取り付ける等の新設備による対策を講じていること等からすれば降下火砕物の大気中濃度の想定及び吸気フィルタの閉塞の問題につきそのリスクが債権者らに著しい損害又は急迫の危険と評価される程度の人格権侵害をもたらすものとはいえない。
3以上によれば巨大噴火によって本件原子炉で事故が起こるリスクは本案判決の確定を待たずに仮処分命令をもって直ちに暫定的に除去しなければならないほどの重大な損害又は急迫の危険には当たらないから本件原子炉の運転が債権者らの人格権を侵害するものとしてその差止めが認められるか否かは現在係属中の本案訴訟によって決着されるべき問題である。
4よって本件仮処分命令申立てはいずれも理由がないからこれらを却下することとし主文のとおり決定する。
以上

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http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/183/088183_hanrei.pdf 裁判所ウェブサイトの掲載ページ
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88183