【下級裁判所事件:選挙無効請求事件/大阪高裁12民/令元 10・29/令1(行ケ)4】結果:棄却

要旨(by裁判所):
1最高裁大法廷判決の判断
∧神29年大法廷判決は参議院の創設以来初めての合区を行いこれによって選挙区間の最大較差がそれまでの5倍前後で推移していた状態から2.97倍平成28年選挙当時で3.08倍に縮小した平成27年改正法について合区というこれまでにない手法を導入しそれまでの最高裁大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる上附則において次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得ると定めることで投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されているなどとして憲法に違反するとはいえないと判示した。
神29年大法廷判決は参議院の通常選挙における投票価値の較差の憲法適合性に関しそれまでの最高裁大法廷判決で示されてきた判断と同一の基本的な考え方に立つものである。本件選挙に関しては平成29年大法廷判決の判断対象となった旧定数配分規定と同様の合区を維持したままの定数配分規定についてその憲法適合性に関する判断が求められているから本件では平成29年大法廷判決を踏まえた判断をするのが相当である。
2定数配分規定の憲法適合性に関する判断枠組み
憲法は選挙権の内容の平等すなわち投票価値の平等を要求している。他方投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する唯一絶対の基準となるものではなく国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限りそれによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても憲法に違反するとはいえない。また二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し国民各層の多様な意見を反映させて参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものであり政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるものでもない。
以上の判断は平成29年大法廷判決が示す判断枠組みに沿ったものである。
3本件選挙当時の投票価値の不均衡が違憲状態にあるか
平成30年改正法は平成27年改正法における合区を踏襲した上で参議院選挙区選出議員の定数を2人増加しこれを埼玉県選挙区に割り振ることによって選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時の3.08倍から2.985倍本件選挙時の最大較差は3.00倍に縮小したものである。また国会においては平成30年改正法の成立までに参議院の選挙制度に関して様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされ複数の法律案が提出・審議されるなどしている。一方で投票価値の較差の更なる是正を図りながら他の政策的目的ないし理由との調和を実現し多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易ではない。
これらの事情とりわけ平成30年改正法により最大較差が平成28年選挙当時より更に縮小されたことからすると本件選挙当時選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえず現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
4選挙制度の抜本的な見直しについて
平成27年改正法附則には本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るとの規定が置かれておりそのことが平成29年大法廷判決の合憲判断の根拠の一つにもなっていたがその後平成30年改正法では定数を2人増加してこれを埼玉県に配分するなどの改正がされたにとどまっておりおよそ選挙制度の抜本的な見直しがされたとはいえない状況にあることが明らかである。
しかし平成30年改正法における定数配分規定は平成27年改正における合区を踏襲した上で上記の改正を行うことによって選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時から更に縮小したものであることに加えこの間国会において選挙制度の抜本的な見直しに向けて様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされてきたこと平成30年改正法の成立に当たり今後の参議院選挙制度改革については憲法の趣旨に則り引き続き検討を行うことを内容とする附帯決議がされたこと投票価値の較差の更なる是正を図りながら他の政策的目的ないし理由との調和を実現し多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易でなく選挙制度の抜本的な見直しが実現されるまでには相応の年数を要することもやむを得ないと考えられることからすると選挙制度の抜本的な見直しがされていないからといって直ちに現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
5結論
本件選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するということはできず原告らの請求はいずれも理由がない。

PDF
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/030/089030_hanrei.pdf 裁判所ウェブサイトの掲載ページ
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89030