【下級裁判所事件/東京高裁/令2・2・26/令1(ネ)2243】

本件は,控訴人らが,被控訴人に対し,現行の戸籍法において,日本人同士の夫婦の一方が婚姻により配偶者の氏を称することとした場合に,婚姻前の氏を戸籍法上の氏として称することを認める制度(本件旧氏続称制度)が設けられていないこと(本件旧氏続称制度の不存在)について,日本人同士が離婚した場合や日本人が外国人と婚姻又は離婚した場合と比較して取扱いが異なり不合理な差別で憲法14条1項に違反する,婚姻状態の有無という個人のプライバシーに関する情報が本人の意に反して公にされることとなり憲法13条に違反する,国会の立法裁量の範囲を超える不合理なもので憲法24条に違反するなどとした上で,同制度の不存在が法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反する状態であることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合に該当し,同制度を設ける立法措置を執らないという国会議員の立法不作為(本件立法不作為)が国家賠償法1条1項の適用上違法となるところ,控訴人らは本件立法不作為により精神的苦痛を被った旨を主張して,同項に基づく損害賠償として,控訴人ら各自に対し,それぞれ55万円(慰謝料50万円及び弁護士費用5万円)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成30年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める事案である。
原判決は,日本人同士の婚姻の場面における本件旧氏続称制度の不存在が憲法14条1項に違反する状態にあるということはできない,控訴人らにつき自らが法律婚の状態にあるという情報をみだりに第三者に開示又は公表されたとは認められず憲法13条違反の主張は採用できない,夫婦同氏を定める民法750条の規定が合憲である以上,そこから派生する不利益に対処するため,本件旧氏続称制度に関する法律の規定を設けるか否かは国会の立法裁量に委ねられた問題であり,憲法24条適合性を論ずる余地はないなどとした上で,本件立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。 これに対し,控訴人らがこれを不服として本件控訴を提起した。

(PDF)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/372/089372_hanrei.pdf (裁判所ウェブサイトの掲載ページ)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89372